官民連携の新モデル 60自治体が検討中 「シェアリングシティ」が全国に誕生

官民連携の新モデル
60自治体が検討中 「シェアリングシティ」が全国に誕生

積田 有平(シェアリングエコノミー協会事務局、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師)

シェアサービスを地域に導入し、「共助」による課題解決を目指す「シェアリングシティ」。海外に先行事例が見られるが、日本でも複数の自治体が取り組みを始めている。シェアリングエコノミー協会には現在、60を超える自治体から相談が寄せられている。

シェアサービスを地域に導入し、「共助」による課題解決を目指すシェアリングシティ。2016年にはシェアリングエコノミー協会と5自治体により「シェアリングシティ宣言」が発表された

少子高齢化や人口減少が叫ばれる昨今、これから自治体の財源が厳しくなっていくことは想像に難くない。社会保険制度をはじめ、介護、子育てといった日本の公共サービスのクオリティは世界的に見ても高いが、自治体だけの力で維持し続けるのは困難になるだろう。自治体だけで行なう「公助」ではなく、住民や企業が連携して共に助け合う「共助」の仕組みが必要になっている。

そこで、シェアリングエコノミーの概念を地域に導入し、「共助」による課題解決を目指そうという自治体が増加している。シェアサービス事業者の業界団体であるシェアリングエコノミー協会は、こうした自治体を「シェアリングシティ」として認定する制度を創設、続々と自治体が枠組みに参加している。

自治体の課題と対応するシェアリングサービス

出典:シェアリングエコノミー協会

シェアサービスは幅広い行政課題に対応できる

空間やモノ、スキル、移動手段などを市民同士でシェアするシェアリングエコノミー。政府の「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」の中でも重点施策の一つと定めらており、官民による「シェアリングエコノミー検討会」が設置され、昨年11月には推進プログラムがまとめられるなど、国を挙げたムーブメントとなっている。2015年に285億円だった市場規模は、2018年には500億円を突破すると予測されている(矢野経済研究所調べ)。

「自治体の抱える課題にフィットするシェアサービスも沢山あります」と話すのは、シェアリングエコノミー協会事務局で内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の積田有平氏。

「例えば地方で、人口減少に伴い公共交通手段の維持が困難になっているエリアでは、ライドシェアサービスの活用が期待されており、実際に北海道天塩町などで実証実験が始まっています。このほかにも、雇用創出、女性活躍、社会福祉、観光振興、公的不動産活用、教育などの分野で、公共サービスの一部をシェアサービスで補い、財政的負担を軽減する動きが見られます」

積田氏によれば、シェアリングシティは海外で先行事例が見られるという。

ソウル市は市役所内に「ソーシャル・イノベーション局」を設置し、シェアサービス普及に取り組む

アムステルダム市は、高齢者や低所得者向けにシェアサービスの割引券を発行している

韓国のソウル市では市役所内にある「ソーシャル・イノベーション局」が取りまとめ役となり、シェアサービスの導入を進めている。数多くの団地にシェアリング本棚を設置して図書館機能を代行したり、公務時間外に市役所の会議室や駐車場などのスペースを開放したりという取り組みが行われている。

ソウル市は行政主導のトップダウン型でシェアリングシティが形成されたが、ボトムアップ型の取り組み事例がオランダのアムステルダム市である。日本のシェアリングエコノミー協会に該当する民間団体shareNLが市を説得する形で、2015年2月に「アムステルダム・シェアリングシティ」を宣言。世界で初めて民泊サービス「Airbnb」に適用する規制を作ったり、高齢者や低所得者向けにシェアサービスの割引券を発行したりと、世界に先駆けた取り組みで高い評価を受けている。

積田 有平(シェアリングエコノミー協会事務局、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師)

AsMama(アズママ)はご近所同士で子育てを効率化する「子育てをシェア」を展開。湯沢市とパートナーを組んだ

島原市はスペースマーケットと連携、島原城内の敷地をイベントスペースとして貸し出している

シェアリングシティ宣言

シェアリングエコノミー協会は、日本でのシェアリングシティ普及促進を目指して、2016年11月に秋田県湯沢市、千葉県千葉市、静岡県浜松市、佐賀県多久市、長崎県島原市の首長らとともに「シェアリングシティ宣言」を発表した。同協会では、協会会員企業のシェアサービスを2つ以上導入し、自治体向けスクール「シェアリングシティ・ラボ」を受講する自治体をシェアリングシティとして認定。認定マークの授与のほか、情報提供やギャザリング、マッチングなどのサポートを行う。

実際にシェアリングシティ宣言を行った自治体では、どのような取り組みが行われているのだろうか。

急速に人口減少が進み、高齢化率が35%を超える秋田県湯沢市では、少子高齢化に歯止めをかけるべくAsMamaの提供する子育てシェアサービスを導入。ご近所同士で子どもの送迎や託児をシェアするAsMamaの仕組みを活用し、子育てしやすいまちづくりを進めていく。国際会議などMICE誘致を成長戦略のひとつに位置づける千葉市は、スペースマーケットと連携し、市内の公共・民間施設の利用促進に取り組んでいる。

「このように、5つの自治体はそれぞれの都市の課題やポテンシャルを分析し、シェアサービスを活用しています。自治体にとってシェアサービスの大きなメリットは、新たな財源支出を必要としないところにあるでしょう。各サービス提供企業はプラットフォームをすでに持っているため、それらを活用するだけで良いのです」

また需要変動に強いことも、シェアサービスの特徴の一つだろう。例えば保育サービスの拡充は全国の自治体にとっての課題だが、安易な保育所の新設は、自治体に維持管理のための財負担を生み出し、将来需要がピークアウトすれば保育所は負の遺産となってしまう。しかし遊休資産や地域に眠っていた人材・スキルを活用するシェアサービスを用いれば、需要変動によるリスクはほとんど生まれない。このようにシェアという概念は、自治体経営との親和性が極めて高い。

シェアリングシティ宣言を行った各自治体の取り組み

出典:シェアリングエコノミー協会

自治体内での人材育成や体制構築がカギに

「当協会は2017年を『シェアリングエコノミー普及元年』と位置づけ、シェアリングエコノミーを活用したモデルシティを30地域まで広げることを目指しています。そのためにはまず、都市部と地方部の両方で、シェアリングシティの成功事例をつくりたいと思っています」。例えば、ある都市部の自治体では、テナント賃料が高いためショップビジネスを起こしたい若者になかなかチャンスが生まれないという課題を抱えている。そこで協会加盟社の空間シェアサービスを活用し、若者のポップアップ店舗出店や起業を促進することを検討しているという。

シェアリングシティへの自治体の反響は大きく、協会には現在60を超える自治体から相談が寄せられているという。「ただ、シェアリングシティの宣言や認定がゴールではありません。実際にシェアサービスを地域に深く根付かせるためには、シェアリングエコノミーという概念をわかりやすく地域に伝える『翻訳者』の存在が不可欠です。アムステルダム市ではshareNLが個人や企業、政府機関などへ呼びかけてシェアリングシティ推進に協力してくれるアンバサダー(ボランティア)を集めたことが成功の要因になりました。日本でも同様の取り組みが必要だと思います」

また、自治体職員の育成も重要なテーマである。浜松市ではすでに2016年4月から協会加盟社のスペースマーケットに職員を出向させ、シェアサービス推進人材の育成を実施している。協会は今年秋頃に自治体向けスクール「シェアリングシティ・ラボ」をスタートし、動画eラーニングを中心に、シェアリングシティを学べる仕組みを構築していく。

もう一つの鍵は、自治体の組織体制だ。シェアサービスはあらゆる公共サービス分野に関係するため、自治体の組織の壁をいかに打ち破るかがポイントと言える。「ソウル市役所のソーシャル・イノベーション局のようなリーダー役が必要ではないでしょうか。公共施設の活用や雇用創出、観光振興といったカテゴリーごとに担当者がいて、それらを束ねる『チーフ・シェアリング・オフィサー』とでもいうべき総合監督が旗を振る。そういった形になれば理想的ですね」

「共助」の仕組みが根付いていけば、市民同士の対話が活発になり、地域コミュニティも育まれていく。災害に強いまちづくりや、世代を越えて助け合う風土づくりなどにもシェアサービスは役立つはずだ。シェアリングシティから、新しい官民連携のモデルが続々と発信されることを期待したい。

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