八百屋ベンチャーとして食農業界の人材排出を活性化させるアグリゲート 月商300万円超のすごい八百屋「旬八青果店」が目指す未来



八百屋ベンチャーとして食農業界の人材排出を活性化させるアグリゲート

月商300万円超のすごい八百屋「旬八青果店」が目指す未来

2016年05月27日 07時00分更新

ユニクロや無印良品が採用する、小売店が商品の企画、製造までを担う、垂直統合型のビジネスモデル「Specialty store retailer of Private label Apparel(SPA)」。これを農産物の食品小売りに応用した、「SPF(Specialty store retailer of Private label Food)」というビジネスモデルを指向しているのが、株式会社アグリゲートだ。アパレルとは異なる特性をもつ農産・食品業界で、垂直統合型ビジネスモデルを指向する狙いはどこにあるのか。

創業者であり、代表取締役である左今克憲氏は、「当社の青果店『旬八青果店』の粗利率は50%。業界では異常な数値と言われているが、産地を回り、自ら仕入れをする商品を仕入れるからこそ、この数字を実現している」と話す。

アグリゲートの左今克憲代表取締役

顧客の嗜好を把握できる地域限定の出店戦略

アグリゲートが運営する八百屋「旬八青果店」。ディテールは八百屋だが、アパレルを思わせるスタイリッシュなのれんのデザインとともに、陳列された商品が印象的だ。置かれた野菜や果物をよく見ると、他の青果店とはちょっと異なっている。

例えば青果店には欠かせないニンジンは、4月中旬にカラーニンジン(栄養価の高い黄色や紫のニンジン)が置かれていた。カラーニンジンは産地の店舗や、野菜のバリエーションが多い青果店であれば珍しくないものだが、決して大きな店舗ではない旬八青果店に置かれているのは珍しい。

そのほかさりげなく置かれている柑橘類も、あまり聞き慣れない種類が並んでおり、ニンジン以外に置かれている商品でも驚かされるものが多い。気になる商品が一つ見つかると、「知らなかった、こんな商品があるのか」と再び別の気になる商品が次々に発見できる、狭小ながらも凝った品揃えの青果店である。

「出店している地域で求められている商品を並べて販売している。お客さんの様子を観察し、会話をして、ニーズをつかんだ上で販売を行っている」と、自身がバイヤーとして商品セレクトにも関わる左今氏は笑顔で話す。

画像提供:アグリゲート

旬八青果店は、現在東京都内に10店舗を展開。顧客ニーズに合った商品を提供するために、あえて出店エリアを目黒区、渋谷区、港区、品川区に絞り込んだ、「超狭域ドミナント出店」戦略をとっている。

「現在出店している地域のお客様を観察し、話して、求められているものを探ったノウハウがようやく蓄積されてきた。現在の展開地域であれば、収益が上がる店舗を作れる自信がある。他地域での出店依頼もあるが、同じノウハウが活用できるとは考えておらず、現状では出店地域を絞り込んでいる」(左今氏)

各店舗での売上・利益は通常の八百屋とは比べものにならない。たった2坪の売り場で月間で200~300万円を売り上げる旬八青果店の店舗利益率は10%を超えている。

高収益の背景は、アグリゲートが旬八青果店で扱う商品そのものにある。店頭に置かれているのは、デパートなどに提供されるような青果のなかでも、形が悪く納品基準を満たさないようなB級やC級といったランク付けをされる品だ。だが、多少形が悪くとも、味・品質に問題がなく、そのブランド認知が進んでいれば顧客側との需要はマッチする。農家としても、廃棄しなければならなかったモノに価値が生まれることで積極的な協力ができる。

ただし、いいものを並べれば売れるというわけでは決してない。「求められているものを探る」というと簡単に聞こえるが、実際にその需要に見合ったものを店頭に出せなければ本来は見向きもされないものとなる。都心を中心とした展開を行うのも、利用者側の高いリテラシーなくしては成り立たないからだ。

画像提供:アグリゲート

ベンチャー企業が手がける事業は、短期間に起ち上げ可能なビジネスを業務とすることが多い。アグリゲートが創業したのは2009年2月で、翌2010年1月に法人化した。それから時間をかけて現在のビジネスを作り上げてきた。

「属人性が高いビジネス。決して効率よくビジネスを拡大していけるものではない。その代わり競合はいない。一店舗だけなら競合が出店することも可能だろうが、多店舗展開となると、人を育て、時間をかけて取り組む必要がある」

短期間に成長を目指すベンチャー企業には珍しい、長期戦を覚悟したビジネスとなる。

「まさにそのとおり。同じベンチャー企業をやっている経営者と話すと、『もっと効率がよいビジネスをしたらどうか』と言われることもあるが、『農業を活性化すると先に決めてしまったからしかたない』と(笑)。まずは、信頼を勝ち得て、ポジションを固め、そこから事業拡大を進めていきたい」

現在のビジネスが軌道に乗れば、「2021年以降に上場も検討したい」(左今氏)と計画しているというが、そもそも、このようなビジネスに至ったのはどのような発想からなのか。

農業を変えるために取り組んだ小売業

画像提供:アグリゲート

青果店をビジネスとすることになったきっかけは、左今氏が大学時代、日本各地をバイクで旅に出かけたことにある。

「2カ月、各地を回ったが、当時は若い農作業者をほとんどみかけなかった。若者不在の農地の風景を見ていると、最初は癒やされたが、時間が経つにつれこれはまずいんじゃないかという気持ちになってきた。自分がそこで働くのもちょっと違う。なんとか、若者を農業の現場に連れてこられないだろうか。そんなことを考えるようになった」(左今氏)

農業と人材の関係がアグリゲートの根底にはある。左今氏が大学卒業後に選んだのは、人材紹介や派遣業務を行うインテリジェンス社だった。人材をコアとする業界で、実際の流れを学ぶことが目的だった。

「人材業界で働いてみてよくわかったのは、農業に若い労働者を送ろうにも、賃金が安すぎるということ。オーナーになれば高い収益を得ている人もいたが、『農家へ働きに行く』という観点では、就職しても儲からない。働く若者がいないのも無理はない状況だった」

この状況を変えるためには、「儲かる農家」を作る必要がある。また左今氏自身の実感から、「都会で忙しく働いていると、食環境はボロボロで、健康によくないものばかり食べている。儲かる農家を作ることで、都市の食生活を豊かにすることもできるのではないかとも考えた」と、意識を都市生活者に向けて考え始めた。

起業のためにインテリジェンスを辞めた左今氏は、まずは知り合った農家の野菜をマルシェなどに出店、また百貨店やスーパーへ営業を行う代行業務を行いながら、どんなビジネスを行うべきかを検討した。

「産直の通販事業をやればよいのではというアドバイスもあったが、すでに通販はオイシックスなど先行企業があった。今さら同じことをしてもしょうがない。当時は自分一人、営業代行業務でなんとか食べていくことができる状況だけだった」

営業代行の仕事をする中で、取扱量も徐々に増加していく。そんな中、転機が訪れる。独創的な品揃えのスーパーを展開する福島屋から、青果売場コーナーを請け負わないかという声がかかったのだ。

「担当する以前の実績は、1日5~6万円程度の売上だった。だがこれを請け負って、平均で13万~14万円、最高時には30万円を売り上げる青果コーナーにすることができた」

3倍近い売上アップを実現した要因は、現在の旬八と全く同じ構造だ。店舗があるエリアの顧客を観察し、話をして、求められているものを入荷し続けたことで売上は伸びていった。

「ここで得た経験は大きかった。値段は異なるが味に大きな違いがないような、慣行栽培(通常の育成方法で育てられている野菜)と有機栽培のほうれん草を一緒に販売し、青果におけるブランディングの重要性を痛感した。一人で営業代行をやっているときも、産地や商品名がブランドとして定着していない商品をブランド化するために営業をしていたので、重要性を理解しているとは思っていた。しかし、実際に値段が異なる商品を販売してみると、ブランドのありなしで、ここまで売り場に影響があるのかと驚いた」

この経験を契機に2013年10月、いよいよ自社ブランド、「旬八」の名称で青果店をスタートする。1号店は中目黒駅、続く2店舗目は山手通りに面した目黒警察署前店だ。

「産地から商品を店舗まで持ってくる、物流まで含めてビジネスを考えると、1店舗用の商品だけでは2トントラックは埋まらない。複数の店舗を持ち輸送まで行う方が効率的。そこで、ドミナント展開をスタートした」

この戦略は見事に成功し、順調に店舗は増加していった。

今後の成長の鍵握る教育事業

好調な成長を続けたアグリゲートだが6期目になって危機が訪れる。店舗は8店舗、さらなる事業拡大を狙い、規格外の野菜を扱う飲食店をオープンし、卸業を行う企業とも提携した。ところが、「きちんとした人材教育ができていない状態で事業拡大を進めたところ、5期目まで続けていた黒字が一転、赤字」(左今氏)という事態に陥った。

卸業者との提携はコスト削減につながりそうに思えたが、社内スタッフが育っていない状況では、逆にコストを増やす結果となった。また、これまで順調に業績が拡大していたこともあって、裏側の管理システムの整備などは後手にまわっていた。赤字要因はここにもあった。

「社内教育、管理システムをこのタイミングで急ぎ整備した。重視したのは、社内教育体制の部分。6期目でようやく仕組みを整えた」(左今氏)

社内向けの教育体制の充実は、思わぬプラス効果を生んだ。そもそも野菜を販売するための人材教育を制度立てて行っている企業組織はなかなかない。

「教育事業を専門で行っている企業から、これを外販すれば需要があるといわれ、事業化することになった。普段の食をもっと楽しみたいというカルチャー的な教育と、食や農業に関わったビジネスをしている人向けの講座の2種類を用意し、教育事業『旬八大学』として提供している」

さらに、この教育という仕組みは、今後導入を検討する青果店ビジネスをフランチャイズ方式で実施する場合のビジネスのベースとなる。

「当社の店舗の粗利率は50%で、業界の中では異常と言われている。これは、産地を回って、売れるのかわからないものを選別し、仕入れてくるからこそできるビジネス。実際の現場はきついが、今後ビジネスとして整理すればより稼げる」と左今氏はアピールする。スーパーや百貨店などにも青果バイヤーはいるが、日本各地を飛びまわって地場の農家と直接関わったりはできない。アグリゲートは旬八青果店の評判もあり、日本各地に招聘され開催するセミナー展開と平行して、地元と関われる仕組みがすでにできていた。

もっとも、同社も人材教育が十分でなかった時期に赤字転落していることからも明らかなように、きちんと「青果の生み出す価値を理解している」からこそ、それだけ収益性が高いビジネスが成り立っている。

アグリゲートは大田市場の買参権を持っている。

たとえば同社は、産直だけでなく青果市場からも商品を仕入れている。「福島屋で青果コーナーを担当していた時代に、市場にも行ってみた方がいいとアドバイスを受けて行ってみた。市場は通常の店舗とは異なり、参加方法がわからないようなところから始めたが、産地では得られない貴重な情報がじつはある。取引上の使い勝手の部分で、レガシーな既存の仕組みを使わないというやり方ももちろんあるが、むしろ、良い部分は積極的に使わせてもらおうと、市場からも商品を仕入れている」(左今氏)

産直と比べ、市場で販売されている商品の売価には物流コストが載るため高くなる。だが、そういった点もふまえて市場を積極的に活用するために、通常は借りるケースが多い市場での販売権を、アグリゲートは自社で取得して市場に参加している。

農産物の価値を見抜いたマッチングビジネスの行方は

画像提供:アグリゲート

アグリゲートのコアにあるのは、農産物の価値を見抜いたマッチングだ。高い感度を持った層への適正な価格帯の商品展開はそもそも誰も提供しなかったものだが、展開地域ではブランディングも含めて強い支持を集めている。

中間マージンやこれまで存在したロスを最適化させた、生産者から小売りまでをつなぐSPAならぬSPF構想には、生産者とのコミュニケーションをはじめ、農業そのものについてのノウハウ蓄積が大きい。スーパーなどでも、これまで廃棄してきた商品の買い取りを行い、別ビジネスに生かす事例や、生産者と売り場をつなぐ試みは始まっているが、旬八青果店のようなターゲットの固定化は異質でマネできないだろう。

現状は日本国内ならではのサービスであり、囲い込んだ顧客に対しての商品クオリティ・目利きの勝負となっているが、社会規模に応じて、一定単価での食糧関連の需要は今後世界的に高まる可能性がある。また、そのようなネットワークを持たない企業からすると、サプライチェーンやメディア、飲食業態のノウハウは利用価値も非常に高く、事実アグリゲートでは小売り以外の販売事業として拡大を狙っている。属人的なノウハウから突破口を見いだした左今氏が、さらに教育事業や農業、メディア運営、IT活用といったなかでどのようにシステムを再生産していくのかが、企業としての価値となるだろう。

画像提供:アグリゲート

現在アグリゲートでは、外注を活用していた物流についても、自社で2トントラックとハイエースを1台ずつ持ち、コスト削減につなげている。さらに、茨城県つくばみらい市に自社農場となる「旬八農場」を運営しており、独自のサプライチェーン構築を続けている。

当然ながら、市場だけでない直接で仕入れている産地との関係も忘れてはならない。「売ってくださいではなく、買います!という姿勢からお話を始めるので、強力な関係を築くことができている」と左今氏。産地や流通との関係、そして実績が、労働集約的で低くなりがちな食農ビジネスの利益率を高い水準へと導いている。

現在、アグリゲートの社員は15名で、アルバイトスタッフも含めると50人体制。「ベンチャー企業としては、離職率は低い。かつてのベンチャーのような吐くほど働いて、経営者が常にビジョンを言い続ける組織というイメージではない。アグリゲートのビジネスを成り立たせるために、食が好き、農家が好きという人を優先している」

6期は赤字を経験したが、コアとなる小売業の成果は取り戻しており、年間での売上げは4億円規模、直近の7期は黒字化となった。黒字にこだわるのも、食農業界の人材排出というビジョンがあるからだ。

この先、2021年までは東京をコアとしたビジネスを続け、売上高40億円規模を想定しているという。その先はユニクロや良品計画と同様に海外も見据えた業態展開を狙う。

「将来的には、売上規模にはこだわらず”川上の商品”を価値化するための業態をどんどん作って行きたい。数十の業態を持ちその結果、売上規模が数千億円となっても、あくまで価値提供にこだわる結果の売上という形にしたい」と左今氏は語る。

●株式会社アグリゲート
2010年1月設立。旬八青果店(八百屋)の企画運営をはじめ、農と食の業界でSPF(speciality store retailer of private label Food)のビジネスモデル構築を目指す。
SMBCアグリファンドから2015年時点で資金調達を実施。(5月30日情報を更新)
社員数は2016年5月現在で15名。仕入れた青果への付加価値をつける社員を募集中。

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