「GINZA SIX」が促す銀座のオフィス化



「GINZA SIX」が促す銀座のオフィス化
日経BizGate 5/29(月) 11:35配信

にぎわいを見せるGINZA SIX

「脱百貨店」の脱出先は賃貸オフィス

4月20日にオープンした「GINZA SIX」が大変なにぎわいを見せている。来館者はオープンから18日目の5月7日に150万人を突破し、目標の年間2,000万人を大きく上回るペースだ。同ビルは「松坂屋銀座店」跡地を中心とする再開発であるが、「脱百貨店」をキーワードとしており、収益部分の半分近くが賃貸オフィスとなっている。10月に「松坂屋上野店南館」の建て替えによって誕生する「上野フロンティアタワー」も、建物の半分近くが賃貸オフィスとなる予定で、「脱百貨店」の動きが加速しそうだ。

GINZA SIXは、松坂屋銀座店跡地を含む銀座六丁目10番街区と、隣接する同11番街区を対象に、合計17棟のビルの敷地を一体的に整備して建設された。旧松坂屋銀座店の店舗面積は2万5,352平方メートルだったが、GINZA SIXの店舗部分は約4万7,000平方メートル(共用通路等を含む)と、銀座エリア最大の規模を誇る。

しかし、GINZA SIXに従前の百貨店の部分はなく、欧米の有名ブランドを中心とする241店舗が、全て賃貸借契約によるテナントとして入居している。GINZA SIXには、「大丸松坂屋」関連のブランドが2店舗入っているが、これらもテナントとしての入居である。また、GINZA SIXは、地上13階地下6階のうち、7階~12階の6フロアと13階の一部の合計約3万8,000平方メートルが賃貸オフィスとなっている。すなわち、GINZA SIXは建物のほとんどが「賃貸ビル」で、ホール(能楽堂)や観光施設(ツーリストサービスセンター等)などを除いた収益部分の半分近くが賃貸オフィスで占められている。

一方、10月に完成予定の上野フロンティアタワー(地上23階地下2階、延床面積4万1,000㎡)は、大丸松坂屋百貨店が、同ビルの地下1階部分を、隣接する同店「本館」の地下1階フロアと一体運営するものの、それ以外の部分は、賃貸スペースとなる。現在公表されている計画では、1階~6階に「パルコ」、7階~10階に「TOHOシネマズ」が入居し、12階~22階は賃貸オフィスと予定されている。百貨店部分が一部に残されているものの、同ビルも脱百貨店の一例と言える。

このような状況に対して、百貨店の店舗形態を維持しながら、競争力の強化を目指す動きも見られる。たとえば「三越銀座店」は2015年10月に、5年ぶりの大改装を終えて再オープンした。「三越日本橋本店」は、2018年春までを第1期として、120億円をかけて改装を進めており、さらに2020年までに200億円前後の投資を見込んでいる。

しかし全体的な傾向として、百貨店の衰退は明らかと言える。百貨店の店舗数は1999年の311店舗をピークに、また、店舗面積は2000年の710.7万㎡をピークに減少傾向が続き、2017年3月には231店舗・582.6万㎡となった(図表1)。

脱百貨店の動きは今後も続きそうだが、その「脱出先」がオフィスビルとなると、「百貨店よりもオフィスビルの方が、収益性が高いのだろうか」という疑問を抱く人が少なくないと思われる。商業施設は個別性が強いため、一律には言い難いが、ここではGINZA SIXをモデルとして検討してみたい。ただし、資料が限られているため、一定の前提条件に基づく検討であることを、あらかじめお断りしたい。また、GINZA SIXはあくまでも検討を進めるための素材であり、同ビルそのものに対する検討ではないことも、ご理解たまわりたい。

銀座の最高賃料は、店舗とオフィスで約9倍の差

GINZA SIXのオフィス部分は2017年2月に先行オープンした。報道によれば、4月にグランドオープンした時点で、商業施設部分はフル稼働だが、オフィス部分の稼働率は、内定を含めて約80%だった。満室でオープンするオフィスビルも少なくないため、GINZA SIXの稼働率は低いように感じられるが、これはオフィス需要が弱いためではなく、やや強気の賃料を設定しているため、テナント候補との成約に時間を要していることが大きな要因と思われる。

報道によれば、GINZA SIXのオフィス賃料(坪当たり・月額)は4万5,000円である。日本経済新聞が半年ごとに実施している調査によれば、2017年4月時点で、銀座のオフィス賃料は4万5,000円~2万5,000円となっており、GINZA SIXの賃料は、その上限に当たる。前年同期の調査では、銀座のオフィス賃料は3万5,000円~3万円だったので、GINZA SIXが同エリアの上限を30%近くも引き上げたと考えられる。銀座は、もともと商業施設中心のエリアのため、まとまった床面積のオフィスが不足していた。GINZA SIXによってオフィス需要の「受け皿」ができ、潜在化していた需要が顕在化したと言えそうだ(図表2)。

GINZA SIXの店舗部分の賃料は非開示であるが、同ビルを開発した事業者から、相場(平均賃料)の参考値が示されている。その資料によれば、1平方メートル当たりの年額は、ニューボンドストリート(ロンドン)の約148万円、五番街(ニューヨーク)の約391万円、シャンゼリゼ通り(パリ)の約153万円に対して、銀座は約100万円となっている。この「1平方メートル当たり年額100万円」がGINZA SIXにも当てはまると仮定した場合、坪当たりの月額は約27.6万円になる。

GINZA SIXに対する調査ではないが、不動産情報サービス大手のCBREによれば、銀座の好立地物件の店舗賃料(プライム賃料、坪当たり)は2017年第1四半期(1月~3月)時点で40万円だった。上記の試算結果(27.6万円)に比べて高水準であるが、後述するようにGINZA SIXには様々な賃貸条件のテナントが入居しているのに対して、単体のブランドショップなどには、相当に高額な賃料が設定されている例があると考えられる。ただし、同調査による銀座の店舗のプライム賃料は、8期連続で同水準だった。

一方、クッシュマン&ウェイクフィールドによる調査では、銀座の店舗のプライム賃料は2017年第1四半期時点で40万円となり、前年調査の38万円から5.3%上昇した。両調査には相違点もあるが、銀座の店舗のプライム賃料が40万円という点は一致している。これは、オフィス賃料の上限4.5万円に対して約9倍の水準である(図表3)。

ここまでの記載を読むと、「オフィスと店舗で、賃料の差が大きすぎる」「店舗の方がもうかるのではないか」と感じる人が多いと思われる。確かに賃料の上限だけを比べると、店舗がオフィスを大きく上回る。しかし、店舗の賃料水準や賃貸借契約の内容は、テナントの属性などによって大きく異なる。オフィス賃料も、テナント企業の入居時期などによって異なる場合が多いが、店舗に比べるとばらつきは小さい。

たとえば喫茶店は、コーヒー1杯だけの客が、4人掛けのテーブルを1人だけで長時間占拠した場合などを想定すると、客単価、客席稼働率、回転率(1つの席が1日に延べ何人に利用されたか)のいずれも低い場合が多いと考えられる。カウンターのみの立ち食いそば屋の方が、客席稼働率や回転率が高く、収益性も優っている場合があり得る。

しかし喫茶店は、商談や、ハードな業務をこなすビジネスマンの休憩場所として利用されることも多いため、テナント企業の満足度が高いオフィスビルを運営するには、良質な喫茶店の入居が不可欠と言える。このためオフィスビルのオーナーには、賃料水準を多少下げてでも、評判の良い喫茶店を誘致する例が見られる。このように、店舗によって賃貸の条件に差があるため、一部に賃料の高いテナントが存在しても、ビル全体の平均賃料は必ずしも高くない場合が出てくる。

GINZA SIXは、年間の来館者数2,000万人、年商600億円を目標としている。単純計算すると、平均の客単価は3,000円になる。同ビルには有名ブランドの旗艦店が多数入居しており、周辺の百貨店には客単価が7,000円超の例があることを考慮すると、控えめな目標値のようにも感じられる。しかし、同ビルに入居している241店舗には様々な形態があるため、平均値としては保守的な(低めの)数値が設定されていると考えられる。

商業施設とオフィスビルの収益の差はわずか

参考として、REIT(不動産投資信託)が所有している東京都心部の商業施設(ブランドショップの他、ファッションビルや飲食中心の施設を含む)について、その平均賃料と投資利回りを試算してみた。REITは決算期にビル1棟ごとの賃貸事業収支を公表しているので、賃料収入を賃貸床面積で割ることによって、大まかな賃料を把握できる(図表4)。

平均賃料(坪当たり)を見ると、一部に12万円近い例があるものの、全体としては2万円~3万円台の店舗が多い。前述した通り、銀座エリアのオフィス賃料は4万5,000円~2万5,000円なので、店舗運営に関する特殊要因を考慮しても、平均賃料がオフィスを下回る店舗が少なくないと言える。また、投資利回りも2%台の低水準にとどまっている例が見られる。

利回りには様々な計算方法があるが、ここでは、賃料などの賃貸事業収入から管理コストを差し引いたNOI(Net Operating Income、償却前賃貸事業収益)を不動産の取得価格で割った「NOI利回り」で算出している。一方、REITが東京都心部に所有するオフィスビルのNOI利回りは、一部に2%台の物件もあるが、全体としては4%以上の例が多い。

不動産証券化協会が、REITや私募ファンドなどが運用する不動産について算出したインカム収益率(賃料収入を中心とする利回り)を見ると、2016年11月時点で、東京都心3区(千代田区、中央区、港区)の都市型商業施設(ブランドショップなど)は3.95%、オフィスビルは3.90%、住宅は4.79%だった。都市型商業施設の方が、オフィスビルよりもやや収益率が高いが、それぞれの最高賃料の差に比べると、収益率の差はわずかと言える(図表5)。

GINZA SIXなどが脱百貨店を進める主目的は、「収益性」よりも「収益の安定性」にあると考えられる。都心部のブランドショップやファッションビルでは、成績不振の店舗が短期間に撤退するなど、テナントの入れ替えがひんぱんに発生する。また、賃料の一部に、売上高に応じて金額が変わる「歩合賃料」が組み入れられている例が多い。一方、オフィスビルの賃貸借契約は、全体としては2年間の例が多いが、期間10年ほどの「定期借家契約」も増えており、ほとんどのオフィスビルには、契約期間中は賃料水準が変わらない「固定賃料」が導入されている。

収益特性が異なる店舗とオフィスビルの両施設を運用すれば、好況時には店舗の「歩合賃料」による増収が期待でき、景気の低迷期にも、オフィスビルの「固定賃料」など(店舗の賃料にも「最低保証賃料」といった固定部分が設定されている例がある)によって一定水準の収益を確保できる。

銀座エリアの店舗には、2015年頃に、外国人観光客の「爆買い」を見込んで改装に踏み切ったものの、「モノ需要」から「コト需要」への変化に対応しきれずに、売上高が減少した例が少なくなかった。消費者ニーズの多様化と、その変動サイクルの短期化が、百貨店の収益の見通しを困難にし、脱百貨店とともに「銀座のオフィス化」を促していると言えそうだ。

「GINZA SIX」が促す銀座のオフィス化 : 日経BizGate



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