中国の国際観光収支 赤字拡大のリスク(2) – 北海道新聞



富士通総研経済研究所主席研究員 金 堅敏

■難しくなった貿易黒字での埋め合わせ

 中国は、アウトバウンドとして国際観光市場拡大に大きく貢献したが、インバウンドとしては国際観光市場拡大の果実を享受できなかったと言えよう。その結果として現れるのが国際観光収支赤字の急速な拡大である。中国の国家外貨管理局の国際収支バランスデータを利用して、中国の観光収支の変化をみると図表のとおりとなる。
 国際観光収入は、前回述べたように近年では450億ドル前後で推移しているが、国際観光支出は、2010年前後から拡大しはじめた。2014年には異常とも言える急拡大をみせ、2016年には2167億ドルの巨額な観光収支赤字となった。中国では、モノの貿易にまだ大幅な貿易黒字(2016年には4941億ドル)が維持されており、モノの貿易収支黒字は観光収支赤字を埋め合せても、まだ経常収支へ2774億ドルの貢献ができている。
 しかし、労働集約製品の国際競争力の低下や欧米からの対中貿易収支改善圧力の増加と言ったグローバルな貿易環境から見て、中国がモノの貿易収支に大幅な黒字を計上し続けるのは難しいだろう。実際、2017年上期のモノの貿易黒字は7.3%減少したが、観光収支は19.1%増えた。モノの貿易の黒字で国際観光収支赤字のさらなる拡大を支えるのは無理があろう。したがって、国際観光収支の赤字が拡大し続けるのは、中国の経常収支のバランス維持にリスクをきたすものであると考える。

■海外への資金移転もかなり存在か

 図表で明らかになっているのは、中国の観光収支の悪化が主に観光支出の急拡大によるものであるということだ。海外では、中国の国際観光支出の急速な拡大は家計部門のキャピタルフライ(資本逃避)による側面が大きいと分析する研究者もいる。
 確かに、国際収支統計上での「観光収支」は、(1)宿泊費、食事代、娯楽費、現地交通費、(2)土産品、(3) 出張費、(4)海外での留学費、医療費、(5)ツアー代金などを含むと定義されている。したがって、観光や留学、医療を名目にして、実際は海外に不動産投資等の資金を移転させる法規違反行為がかなり存在すると考える。実際、2015年ごろからの外貨管理強化政策は、このような家計部門による資金逃避行為にも及んでいる。
 ただ、日本政府の国際観光経済分析によると、来日中国人観光客の人数が2013年の131万人から2016年の637万人に急増しただけでなく、中国人観光客の消費額も平均より50%前後高い。中国人観光客のショッピング消費は、最近若干減っているとはいえ、まだ他国の観光客より大幅に多い。したがって、キャピタルフライが少なからず関係しているものの、中国人観光客の支出拡大は現実に起きているものである。

■北海道はなぜ行きたい場所トップなのか

 グローバル化が進むなかで、中国が海外観光を規制するのも健全な政策とは言えない。むしろ、中国は、自国の国際観光競争力を高め、海外からの観光客誘致に全力挙げ、拡大均衡の下で国際観光政策を策定すべきであると提言したい。
 世界経済フォーラムが出した「世界観光競争力報告2017」(WEF “The Travel & Tourism Competitiveness Report 2017”)によると、国別の国際観光競争力ランキングで中国は15位で足踏み状態であるが、近年順位を急速に上げてきた日本は4位で、日中間に大きな差がある。ランキング10位の韓国も順位を上げてきている。
 日韓両国が国際観光競争力を強化してきている政策や取組みが中国のこれから講じられる施策の参考になるはずだ。例えば、北海道が中国人観光客の行きたい観光地方のトップとなっているのは、「非誠勿擾」(邦題:狙った恋の落とし方)という人気映画の美しいロケ地となったからであろう。このように海外観光客の心を引き付ける取組みが必要となるだろう。
(この項おわり)



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