効果なき量的緩和策で世界から取り残された日銀 – BIGLOBEニュース – BIGLOBEニュース


量的緩和策の成果をあげられず、日銀は難しい立場に追い込まれている。日銀本店で記者会見する黒田東彦総裁(2014年10月31日撮影)。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO〔AFPBB News〕

 量的緩和策からの出口戦略をめぐって、日銀に対する包囲網が狭まってきた。FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを本格化し、ECB(欧州中央銀行)も出口を模索する中、日銀だけが大規模緩和を続けることは難しくなりつつある。最終的には国内の政局次第だが、効果を上げられないままの撤退となった場合、国民負担に関する議論を避けて通ることはできないだろう。

FRBに続き、ECBも出口戦略へ?

 量的緩和策はリスクが大きい政策ではあるが、うまく機能させれば実害を伴うことなく経済を成長軌道に乗せることができる。実際、米国などでは量的緩和策は一定の成果を上げており、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、正常化に向けた出口戦略に舵を切った。今年6月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、予想通り再利上げを決断。年内にはバランスシートの縮小を開始することを正式に表明した。

 一方、ECB(欧州中央銀行)は、日本と同様、量的緩和策を継続中だが、欧州の景気が予想外の回復を見せていることから、市場ではECBも出口戦略に舵を切るのではないかとの観測が高まっている。ECBのドラギ総裁は火消しに躍起だが、一方で、量的緩和策の終了を示唆する発言も行っており、市場では、ECBは正常化に向けて動き始めたとの見方でほぼ一致している。

 そうなってくると難しい立場に追い込まれるのが日銀である。日銀は2013年4月に量的緩和策をスタートして以降、4年にわたって継続してきたが、今のところ目立った成果は上がっていない。

 おらさいすると、量的緩和策というのは、日銀が国債などの資産を積極的に購入し、市場にインフレ期待を醸成させる金融政策である。実質金利は名目金利から物価上昇率(期待インフレ率)を差し引いて計算されるが、インフレ期待が高まれば名目金利が変わらなくても実質金利が低下する。設備投資は実質金利に大きな影響を受けるので、一連の政策によって設備投資が増え、経済成長が実現するというメカニズムだ。

 量的緩和策を実施した当初は、為替が円安に振れて輸入物価が上昇。それに伴ってインフレが進むかに見えた。消費者物価指数(「生鮮食品を除く総合(コア指数)」)は、プラスに転じ、2014年5月にはプラス1.4%(消費税の影響除く)まで上昇した。

 だがその後、物価の伸びは急激に鈍化し、2016年後半からは物価がマイナスになる月も目立つようになった。2017年に入ってからは世界経済の回復で多少、物価は持ち直しているが、状況が大きく変わったわけではない。

突出して肥大化している日銀のバランスシート

 結局のところ、日銀だけが量的緩和策において目立った成果を上げられなかったという図式であり、その原因については、専門家が様々な見解を披露している。だが、政策的な効果を得られていないというだけの理由で、日銀が大規模な緩和策を継続するのは現実問題としてかなり難しい。

 各国の中央銀行が出口戦略を模索する中、日本だけが緩和政策を続ければ、事実上の円安誘導となってしまい、各国の理解を得ることができなくなるからだ。もしECBが今年の後半に出口戦略に舵を切った場合、日銀も出口戦略について何らかの見解を出すことが求められる可能性は高い。

 ここで問題となるのが、突出して肥大化してしまった日銀のバランスシートである。量的緩和策の実施によって日銀のバランスシートは約3倍に拡大しており、資産規模は500兆円に達する。一方、FRBは3度の量的緩和策によってバランスシートは4.5倍に拡大したが、それでも資産規模そのものは4.5兆ドル(約500兆円)と日本とあまり変わらない。

 米国のGDP(国内総生産)は日本の3倍以上あることを考えると、日銀のバランスシートの大きさは突出している。米国経済は基本的に堅調であり、世界中の投資家が米国債の保有を望むので、米国債の市場における消化余力は高い。それでもFRBのバランスシート縮小は、米国経済の腰を折らないよう慎重に実施される。縮小ペースは、当初、米国債が月60億ドル、MBS(住宅ローン担保証券)が月40億ドルという、ごくわずかな金額であり、1年後でも国債が300億ドル、MBSが200億ドルにとどまっている。

 好景気の米国ですら、これだけ慎重にならざるを得ない中、量的緩和が成功せず、しかも巨額の資産を抱える日銀が出口戦略を遂行することは、そう簡単なことではない。

日銀の損失に関する議論はタブー視されてきたが・・・

 これまで日銀の出口戦略や、その過程で生じる(かもしれない)日銀の損失については、半ばタブー視されており、あまり語られることがなかった。だがここに来て、一部のエコノミストが日銀の損失についてはっきり言及するようになり、関連する報道も増えた。社会の空気は確実に変化している。

 日銀はルール上、時価会計を行わないので、国債価格の変動によってバランスシートが毀損することはない。また、満期まで国債を保有することが大原則なので、債務超過に転落することはないというのが政府の表向きの見解となっている。

 実際、その通りであり、途中で国債を売却しない限り、損失が顕在化することはないだろう(額面以上で購入した国債の損失を除く)。だが、ここで2つの大きなカベにぶち当たる。本当に国債を売却せずに出口戦略を進められるのかという問題と、金利上昇による当座預金への影響である。

 国債を売却せずに出口戦略を進めるということは、国債を再投資せず、償還を待ちながら、ゆっくりと国債の残高を減らすことを意味している。このスキームが成立するか否かは、市場がそれだけの時間的猶予を日銀に与えるのかという点にかかっている。つまり金利が低い状態で、かつ緩やかな景気拡大が続かなければこのスキームは成立しない。これは運を天に任せるようなものである。

 多くの国債を日銀が放出するまで、市場の国債買い入れ余力が維持できるのかは保証の限りではなく、現実にはかなり綱渡りのスキームにならざるを得ないだろう。

当座預金から資金が引き出される悪夢

 さらにやっかいなのが金利の動向である。

 出口戦略の途中で、意に反して金利が上昇してしまった場合、日銀がこれを制御するのは極めて難しくなる。日銀の当座預金には現在、約350兆円の資金が積み上がっているが、このうち、金利が付与されてるいるのは約200兆円、ゼロ金利となっているのは約100兆円であり、残りの一部にはマイナス金利が適用されている。

 これまでは金利がほぼゼロの状況であり、他に有望な融資先がなかったことから、銀行は当座預金をそのままにしていた(いわゆる“ブタ積み”)。しかし、金利が上昇した場合、ゼロ金利以下の当座預金を銀行が保有しておくことは自らの損失拡大につながる。量的緩和策の本来の意図とは別に、銀行が当座預金から資金を一斉に引き出す可能性は否定できない。

 もし、現在の状態で当座預金から多くの資金が流出すれば、一気にインフレが加速するリスクがある。日銀や財務省など金融当局にとっては何としても避けたいシナリオである。当座預金からの資金引き出しを防ぐには、市場金利の水準に応じた金利を当座預金に付与する以外に方法はない。

 だが、預金の額が額だけに金利も桁外れだ。300兆円の当座預金に3%の金利を付ければ、それだけで9兆円もの支出となる。とうてい日銀の利益でカバーできる水準ではなく、最終的には税金など何らかの形で国民が負担する結果となるだろう。この決断が政府にできるのかは何とも微妙なところだ。

 しかしながら、時期が遅くなったとはいえ、日銀の潜在的損失について議論できる環境が整ったことは喜ばしいことである。量的緩和策は日本人自身が決断した政策であり、その後始末についても、当然、自らが決断していかなければならない。

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筆者:加谷 珪一


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