英離脱、なお世論分断 2国間FTAに活路 – 日本経済新聞



 【ロンドン=小滝麻理子】英政府が欧州連合(EU)に離脱を通知し、「戦後の英史上最も困難な交渉」(BBC)が始まった。メイ政権は離脱後は2国間の自由貿易協定(FTA)を拡大し、「よりグローバルな国にする」と意気込む。だが、北部スコットランドを中心にEUとの経済的結びつきが弱まることへの世論の不安は強い。国内に深い分断を抱えたまま、視界不良の船出となる。

 「世界で保護主義の兆候が強まる中で、欧州は自由貿易を守る責任がある」。メイ首相は29日、下院で演説し、離脱後のFTAの早期締結をEU側に呼びかけた。

 メイ氏は厳格な移民制限を実現するために、域内無関税などを定めるEU単一市場から撤退する方針も改めて表明。離脱通知の書簡で、FTAなどの合意がなければ「我々は世界貿易機関(WTO)の条件で貿易することになる」と記し、英・EU双方にとって不利益になるとけん制した。

 2016年時点でEUは英国にとって輸出の48%、輸入の55%を占める最大の貿易相手だ。英国内には約330万人のEU市民が居住し、金融業などサービス業に幅広く従事。英国民も120万人がEUに住む。英国は経済面でEU単一市場の恩恵を享受してきた。

 英政府は離脱後も単一市場を最大限活用できるようEUと新たなFTA協定を結びたい考え。同時に、新興国などと2国間のFTAを拡大することで、EUへの依存を引き下げ、離脱の悪影響を和らげる狙いだ。すでに米国やインド、トルコ、オーストラリアなどとFTA交渉の準備協議を進めることで合意。中国や日本とも貿易関係の強化を目指す。

 英国の閣僚たちからは一様に強気な発言が飛び出す。ハモンド財務相はEUとの離脱交渉がうまくいかなかった場合に「英国はすごすごと引き下がらない」と発言。法人税率の大幅な引き下げなどに含みを持たせ、あらゆる手段で対抗すると“脅し”をきかせる。

 デービスEU離脱担当相はEUと新貿易協定で合意できないまま離脱する「ノーディール」の場合の対策を官庁街に指示。ジョンソン外相は「ノーディールでも問題ない」と意気軒高だ。

 こうした英政府の強硬な離脱方針を巡って国内はなお分裂している。

 「私の将来を返して」「EU単一市場の離脱まで容認した覚えはない」――。25日、国会議事堂近くで開催されたEU残留支持者によるデモは、約10万人が参加する空前の規模になった。

 28日にはスコットランド議会が英国からの独立を巡る住民投票の再実施を求めることを賛成多数で可決。主要産品のウイスキーを中心にスコットランドのEU向け輸出は増えており、英政府を通じてEUからの補助金にも頼る。EU加盟国であるアイルランドと国境を接する北アイルランドでも、アイルランドと併合し、EU残留を目指す民族政党が躍進。英国解体の懸念も再び強まる。

 英調査会社BMGによる直近の調べでは、EU単一市場からの完全撤退などメイ政権の方針を「支持する」は38%、「支持しない」は33%でほぼ拮抗。EU離脱交渉が英経済に与える影響には「悪い」が43%と、「良い」の33%を上回った。

 今のところ、ポンド安による輸出増などで英経済は想定よりも堅調に推移している。17年は2%と高い成長率を見込む。

 ただ、ロンドン市内の不動産価格の下落など、離脱に伴う不透明感から投資に冷え込みの兆しも見え始めた。東欧移民らは英国の農業や低賃金のサービス現場を支えており、地方の中小企業では移民減少に伴う人員不足を懸念する声も上がる。

 メージャー英元首相は「メイ政権はバラ色の観測ばかり並べ、人々を誤って導いている」と強く批判する。主権と経済の二兎(にと)を追う英政府の戦略にはまだ多くの不確実な要素がある。



こんな記事も読まれています



コメントを残す