必ずしもベストではない 相続対策のアパート建築 不動産コンサルタント 田中歩 – 日本経済新聞

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 2015年1月の相続税法の改正で、基礎控除が従来の6割に圧縮されました。基礎控除とは相続する財産の評価額から引き算できる額で、それまでは「5000万円+1000万円×相続人の数」でしたが、現在は「3000万円+600万円×相続人の数」と圧縮され、相続税がかかる人が増える要因となっています。

 国税庁によると、15年に亡くなった人(被相続人数)は約129万人(14年は約127万人)。このうち相続税の課税対象となった被相続人数は15年が約10万3000人(同約5万6000人)で、課税割合は8.0%(同4.4%)と、前の年より3.6ポイント増加しました。

 こうした中、相続対策としてアパート建築をしようとする人が増えています。アパートを建築すれば(1)土地の評価が下がる(2)建物は時価よりも低い評価がなされる(3)資金を借り入れれば相続財産評価額から引かれる――といった効果があるからです。

■賃貸事業のリスク、吟味を

 とはいえアパート経営は長期にわたる事業ですから、賃貸事業のリスクを受け止められるか、現金収支が赤字にならないか、赤字になった場合でも対応可能かといったことを十分に吟味する必要があります。主な注意点については、2016年8月31日にこのコラムで掲載した「相続対策でアパート建築 3つのワナに注意」で解説した通りです。

 ところが、最近、賃貸事業リスクを吟味する以前の問題として、そもそもアパート建築が相続対策としてベストではないという事案に出くわしました。

 筆者に相談に来られた人は、首都圏の約300平方メートルの敷地にある老朽化した住宅に、寝たきりの母親と同居している60代の一人息子のAさんです。Aさんは複数の大手ハウスメーカーからアパート建築を提案され、どの提案を選べばよいか悩んでいました。

 母親はさほど金融資産を持っていません。「借り入れをしてアパートを建築をすれば相続税を大幅に節税できる」というハウスメーカーの提案は、代々守ってきた土地を売らずに済み、相続税も節税できるため、Aさんにとって歓迎すべき話でした。しかし、リスクをとってまでアパートを建築することが必ずしもベストとはいえなかったのです。

 この土地の路線価は1平方メートルで40万円でしたので、土地の評価額は1億2000万円となります。ほかに財産がないと仮定した場合、基礎控除は3600万円ですから、課税遺産総額は8400万円となります。

■小規模宅地等の特例、利用を

 借金をしてアパートを建築すれば、課税遺産総額は大幅に減るのは事実です。ただ、Aさんは母親と長く同居していたので、小規模宅地等の特例を利用すれば、330平方メートルまでの宅地ならば相続税の評価を80%減らせます。Aさんの場合、1億2000万円だった土地の評価額は2400万円まで圧縮できます。ここから基礎控除額の3600万円を差し引けば、課税遺産総額は0円となるので、確定申告をすれば相続税はかからないことになります。

 筆者が懇意にしている相続専門の税理士とともに、このことをAさんに説明したところ、「借金をしてまでリスクをとらなくても、相続税がかからない方法があるならば、そのほうがいい」との考えに変わりました。母親も本当は思い出のある自宅で天寿を全うしたいという気持ちがあったので、結果としてベストな選択となりました。

 アパート建築が効果的な相続対策となるケースもあるので、ハウスメーカーなどが老朽化した住宅のある一定規模の土地の所有者を営業の対象とするのもうなずけます。しかし、ハウスメーカーの中には、建築の受注を第一の目的としているところが全くないとはいえないのではないかと筆者は考えています。

 相続税は複雑でなかなか理解しにくいところがありますが、少なくとも借金をしてアパートを建築することだけが、ベストな相続対策ではないということを知ってほしいと思います。

田中歩

 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

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