新世代大家さん、人つなぐ 発想逆転、入居者が続々 – 日本経済新聞

工事中の「しぇあひるずヨコハマ」を視察する荒井さん(右)と入居予定者

 人口が減り、賃貸のアパートやマンションの入居率低下に悩むオーナーが増える一方、従来の常識にとらわれない若い「大家さん」が誕生している。自分が直接会って入居者を決め、疎遠になりがちな入居者同士のつながりも取り持つ。発想を逆転した賃貸物件には入居希望が相次いでいる。

 横浜駅から徒歩約10分。急な坂を上ると、クレーン車が建材を運ぶ工事現場に出た。4月に3階建ての「しぇあひるずヨコハマ」が完成する。事業主はIT企業を辞め「大家業」に転じた荒井聖輝さん(32)だ。 約840平方メートルの敷地には昨年2月まで、築60年近い古びたアパートが立っていた。曽祖父が建てた賃貸物件で、一時は解体も考えた。だが、介護や子育てを経験し、地域の人間関係が希薄になっているのを痛感したこともあり「人と人がつながる拠点に使いたい」と改修することにした。

 この「しぇあひるず」、宣伝をしていないのに、既に入居者が決まっている。荒井さん自身が「考え方を共有できる人を探してきた」のだ。マナー講師で相模原市の山口朋子さん(44)もその一人。起業セミナーで荒井さんと知り合い「人柄が気に入って」転居を決めた。「部屋の内装は好みどおり、北欧風にしてもらった」(山口さん)。自然保護のNPOや女性自助グループの事務所も“住人”になる予定。

 完成後は入居者による街歩きイベントや地域の子ども向けバーベキュー大会などを開催する計画だ。「人と人を結びつける大家業が楽しくなってきた」と荒井さんは顔をほころばす。

◇    ◇

 「ここなら面白いことがやれそうだ」。リクルートに勤める弦本卓也さん(29)は不動産会社から、東京・神田にある築36年の5階建て雑居ビルの購入を勧められ夢が膨らんだ。内覧の1カ月後には購入契約に署名。2年前のことだ。

 「一緒にワクワクすることをやろう」。弦本さんがSNS(交流ソフト)で発信したメッセージに、入居希望が次々集まった。2階を弦本さんや入居者らが力を合わせて内装工事し、起業を目指す若手が共同で使える空間に衣替え。上の階はシェアオフィスとシェアハウスに変えた。

 大学生の矢野優介さん(20)は自宅も大学も埼玉県だが、このビルに引っ越してきた。「通学時間はかかるが、他の入居者から刺激を受ける今の生活の方が充実している」。大家の弦本さんが同じシェアハウスに住んでいるのも心強い。

 通常、入居者と大家が顔を合わせるのは苦情処理ぐらい。だがその距離感が縮まれば、大家を軸に入居者同士の交流も進む。こんな光景が地方でも広がる。

 「おい、タカ」「何ですか、たくやさん」――。鳥取市にある「ヤマネコ荘」は、入居者と大家が下の名前で呼び合う仲だ。築30年を超え、入居者ゼロだった学生アパートを2年半前、不動産業の山根卓也さん(35)が個人で買い取った。

「ヤマネコ荘」の入居者の部屋で談笑する大家の山根卓也さん(中央)

 今は入居希望が絶えない物件になった理由の一つは、壁紙や床材を自分好みに変えられること。原状回復の義務はない。沖縄県出身の大学生、タカこと中村貴裕さん(27)は壁一面をマリンブルーで塗った。「沖永良部の海をイメージした」自慢の部屋だ。

 共用スペース「ゼロ号室」は入居者の交流場。新しい住人が決まると歓迎会を開き、冬場には希望者が集まり鍋の会で盛り上がる。

 大家さんが入居人を引き連れて引っ越すケースも出てきた。東京都武蔵野市でシェアハウスを運営していた瀬川翠さん(27)は昨年11月、同市内に購入したマンションに入居者ごと移った。「一緒にお酒を3時間飲んで楽しいと思う人」を条件に選んだ入居者との結束は固い。

◇    ◇

 空き室増加に悩む大家さんは全国にいる。それに負けない人材を育てようと昨年11月、東京・千代田に「大家の学校」が開校した。第1期には札幌や熊本を含め約30人の生徒が集まった。校長の青木純さん(41)は「受け身に頼らない、新しい大家像への転換が必要」と力を込める。5月には第2期が始まる。

■若者、共有する意識強く

 賃貸住宅に詳しいHOME’S総研(東京・港)の島原万丈所長に聞いた。

 「大家と入居者が親密な関係だったのは昔のこと。1980年代以降、入居者がプライバシー重視になった。供給側がこれに応え画一的な物件を増やした結果、住まい選びの基準が駅などからの『近さ』と物件の『新しさ』になり、『暮らしやすさ』という基準がないがしろにされた」

 「最大の問題は賃貸住宅を造る人も貸す人も借りる人も、住む場所を自ら居心地良くしようと工夫することを忘れていること。物件への愛情がないのだ。ただ、今の若い世代は物や情報を共有する意識が強まってきているし、これから大家の世代交代が進む。借り手、貸し手の意識は変わるだろう」

(田辺省二)

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p class=”cmn-editable_right”>[日本経済新聞夕刊2017年3月7日付]

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