農業分野へ資金融資で競争激化 岡山県内の金融機関、実績は今一つ … – 山陽新聞



笠岡湾干拓地に建設中のサラの大規模園芸農場の完成図。地元地銀などの大型融資を受ける

農業者とバイヤーなどのビジネスマッチングを目的に毎年開催されているトマト銀行「アグリフードフェアー」=2017年7月12日、岡山コンベンションセンター(岡山市北区駅元町)

 地方の金融機関は依然として厳しい経営環境が続いている。岡山、広島、香川県の地方銀行、第二地方銀行の2017年9月中間決算(単体)は、6行がすべて減収減益となった。地場企業の業況の回復感が乏しく、企業の資金需要が停滞、加えて日銀のマイナス金利政策で利ざや縮小が収益を圧迫しているからだ。このため各金融機関は農業をはじめ、福祉・介護分野などへの新規顧客開拓に懸命。なかでも農業への資金供給はアベノミクスの競争力の強い農業育成に向け、政府系資金が大量に市場放出され、岡山県内の金融機関の融資競争が激化している。

 ▼担保なしの投融資も

 瀬戸内海を埋め立て広大な農業用地が広がる笠岡湾干拓地。11.2ヘクタールの農地で今、アジア最大級の施設園芸農場の建設が急ピッチで進められている。株式会社サラ(笠岡市平成町)が2019年春の完成をめどに、東京ドームの約2.4倍に当たる半閉鎖式のガラス温室を建設。ハウス内の冷暖房を賄い、売電も行うバイオマス発電所(出力10メガワット)を整備する。トマトを中心にパプリカ、レタスなどを水耕栽培、周年出荷体制で年間6000トン以上の園芸野菜を生産。設備投資額だけで125億円、運転資金などを含めると140億円を超えるというビッグプロジェクトだ。

 規模の大きさもさることながら、関係者を驚かせたのは同社への金融機関の巨額な融資、投資額だ。まず中国銀行(岡山市北区丸の内)が中心となってシンジケートローンを組み、総額約59億円を融資した。同シンジケートローンには同行のほかに岡山県内に本店、支店がある笠岡信用組合(笠岡市笠岡)、西日本シティ銀行(福岡市)、山陰合同銀行(松江市)、玉島信用金庫(倉敷市玉島)、トマト銀行(岡山市北区番町)が参加。これに政府系の日本政策金融公庫(東京)が約68億円を協調融資した。中国銀の営業統括部アグリビジネス担当の國田和寛主任は「景気の停滞感で地方は融資が伸び悩んでいる中で、農業はこれからの成長分野になる。公庫が積極的に協調融資したことで、いい意味でのリスク分散になり融資がスムーズに決まった。農業を将来の成長産業と位置付け、多くの金融機関がシンジケートローンに参加した」と説明する。

 サラへの資金サポートは、同シンジケートローン以外にファンドがある。中国銀行グループが日本政策金融公庫と農業ファンドを組み、サラに2億5000万円を、さらにバイオマス発電設備にインフラファンドとして2億5000万円を投資している。いずれも投資期間は農業ファンドが原則15年間、インフラファンドが同23年間。期限が過ぎればサラがファンドで得た利益を上乗せして買い取る仕組み。財務上も負債部門に計上されないなどのメリットがある。

 この結果、サラが創業に伴い調達した資金は、長期低利融資の128億円とファンド5億円の計133億円にのぼる。サラにとって従来の融資に比べ担保設定の必要がなく、長期・低コストで資金を活用できる。金融機関にとっては資金融資が低迷する中で、日本金融政策公庫の融資がある意味での信用保証となり、まさに〝渡りに船〟の融資案件だったわけだ。サラの小林健伸社長は「近代的なオランダ方式の農業を取り入れることが、競争力のある農業育成を目指す国家戦略に合致している。外国に拠点を持つ国際的な大手官民ファンドからの投資話もあった。金融・投資機関が近代的な攻めの農業を高く評価してもらったことはありがたい」と受け止める。

 ▼笠岡信用組合の挑戦

 離島を抱え人口減少が厳しいエリアを抱える笠岡信用組合(笠岡市笠岡)は今年1月、活性化に農業・漁業の振興が欠かせないとして、全国の信組などと共同で農業者に資金を提供する「信用組合共同農業未来ファンド」(農業未来ファンド、総額3億6000万円)を立ち上げた。同ファンドは第一勧業信組(東京)が音頭を取り、笠岡(岡山)、北央(北海道)、秋田県(秋田)、いわき(福島)、あかぎ(群馬)、君津(千葉)、糸魚川(新潟)、都留(山梨)の9信組が各2000万円を出資、それに日本政策金融公庫(出資額1億7600万円)や民間投資育成会社などが加わって12機関で設立した。西日本で参加したのは笠岡信組が唯一。11月13日、同ファンドの初の企業に地元でバナナ、パパイヤを生産・販売するプランター(笠岡市二番町、資本金100万円)を選び、1000万円を投資することを決めた。

 プランターは投資を受けた資金で資本金を増額、栽培ハウスの関連設備費などに充てる予定。同社は笠岡湾干拓地内で岡山産の無農薬バナナ、パパイヤを生産。今回のファンドの活用で将来は東京など大都市圏への市場開拓を狙うという。同社の小堀秀男社長は「ファンドには全国の信用組合が出資しており、資金面もさることながら参加信組を通じて広域な市場情報が手に入る」と期待する。

 同信組は中国銀行などとシンジケートローンを組み、笠岡湾干拓地で創業する大規模園芸施設のサラにも融資しており、農業分野への融資、投資を先行させている。1年半前から職員を全国信用協同組合連合会に出向させ、今回の農業未来ファンドの立ち上げから参加。担当者で同連合会に出向中の三島大尚経理部次長は「融資先が厳しい環境の中で単組の取り組みだけでは将来性がない。圏域を超えた広域的なレベルで他の金融機関と協調して融資先企業を開拓していきたい。取引先企業にとっても広域的な連携は東京など大都市圏の市場開拓のためにも有益」と戦略を練る。地銀などに比べ営業地盤が限定される信組だが、県境を越えた他の金融機関との連携で生き残りを模索している。

 ▼資金需要は予想外に低調

 サラへの融資でシンジケートローンの主幹事的な役割を果たした中国銀行。行内組織に日本金融政策公庫認定の農業経営アドバイザー約20人を養成し、融資先の農業者や食品加工業者に経営を指導するなどして資金需要の掘り起こしに躍起だ。本店営業統括部地域開発チームにもアグリビジネス担当部署を設け、ファンドやプロパーの制度融資の増強に力を入れる。そのひとつが、2013年に農林漁業成長産業化支援機構(東京)と共同で設立したアグリサポートファンド(総額5億円)。農業の6次産業化を手掛ける農業者や食品加工業者を対象に最長15年間投資する。

 同ファンドによる投資は14年4月にカット野菜生産のベジタコーポレーション(福山市駅家町)に1億円が決まり、同機構が参加した同種ファンドで中四国初のケースとなった。16年6月には水産物卸のクラハシ(福山市引野町)が設立した水産物加工業の「Marine Link」(沖縄県)に2000万円を投資した。同行はサラにも2種類のファンド計5億円を投資している。ファンドは基本的には運用継続期間が長期で、原則投資額は投資先企業の資本金の50%を超えないこととし、金融機関が投資先企業の議決権を持たないことなどが条件となっている。同行の國田主任は「経営指導には携わるが議決権を持たないため、受け入れ企業にとっては安心して資金手当てができる。プロパー融資を含め年間40~50億円の資金提供を目指したい」とメリットを強調する。

 トマト銀行でも14年に農林漁業成長産業化支援機構、みずほ銀行グループなどとタイアップした「トマト6次産業化応援ファンド」(総額10億円)を設立。農業の6次産業化を支援するため、同年にトマトのジャム生産などの里山アグリ(倉敷市西坂)と、キクラゲ乾燥加工のビナン食販(総社市清音)にそれぞれ1000万円を投資している。里山アグリはトマトを生産するトマトファーム(真庭市)、ビナン食販はもともと工業用ゴム生産のビナン(総社市)が、農業の6次化産業分野に進出するために設立した新会社。同行はこのほかにも岡山県内の農業生産者や食品加工グループとバイヤーを仲介する「トマトアグリフードフェアー」を毎年企画、資金需要につなげている。今年も7月12日に岡山市内で7回目を開催し、開催当日だけで販路開拓で21件が成立した。コンサルティング営業部の小野千年調査役は「ビジネスマッチングなどを通じて新たな資金融資先を開拓している」と戦略を練る。

 しかし、農業向けファンドや制度融資にしても必ずしても順調だとは言い切れない。岡山市内のある食品加工会社は「ファンドの投資額は投資先企業の資本金の50%を超えてはならない、金融機関は議決権を持たないと言うが、実際にはきめ細かく財務、経営内容に金融機関のチェックが入りやりづらい。投資と言っても借金に変わりないし、超低金利時代でほかにも有利な融資制度はいくらでもある」という。

 農業関連の融資制度はかつて考えられない低利・長期で多様な商品が出回っている。その一つが政府系公庫の制度融資だ。アベノミクスでは成長戦略として競争力のある農業改革を推進、政府系の日本政策金融公庫を通じて、資金融資を積極的に展開。経営基盤強化資金のスーパーL資金をはじめ青年等就農資金、経営体育成資金、農林漁業セーフティネット基金などの低利融資を行い、返済期間が最長25年、大半のケースで無担保、無保証の商品をラインアップしている。その結果、農林漁業向け融資実績は2016年度実績で約6000億円となり、第2次安倍内閣がスタートした12年度実績と比較し44%も急伸している。これに便乗する形で民間金融機関が協調融資を行うというパターンが多いようだ。

 しかし、金融機関の思惑とは裏腹に新規の資金需要はそれほど伸びていない。例えばファンドにしてもトマト銀行の6次産業化応援ファンド(総額10億円)は3年前に創設されたが、利用は2件で総額1億円にとどまっている。公庫融資をはじめ低金利長期融資の制度が多くあり、融資競争が激化している一方で、需要ニーズがそれほどなく、市場に出回る資金はだぶついている。ある地元金融機関では「公庫制度もあり競争するには厳しい環境。資金需要を掘り起こすために、イベントなどを開いて対応している」と打ち明ける。

 高級チーズなど乳製品で全国ブランドになった有限会社・吉田牧場(岡山県吉備中央町)。社長の吉田全作さん(62)は、1987年に独立して同社を創業。その際チーズ生産施設を建設する資金調達に苦労した経験がある。当時は借り入れに農協管内の2人の保証人が必要だったが、最近は政府系金融機関、地元の金融機関を通して融資の案件がよく持ち込まれるという。吉田さんは「安倍内閣は農業をアベノミクスの成長戦略の目玉にしているが、先行きが見通せない厳しい農業の現状下で、大きな借金をすれば経営破たんする危険性は高い。金融機関がいくら資金融資を言ってきても、簡単に借り入れを行う環境は整っていない」と話す。

 ▼鹿児島銀行の取り組み

 全国の金融機関が農業分野の融資にしのぎを削る中、鹿児島銀行の取り組みが今、注目を集めている。同行は2003年にアグリクラスター構想を提唱。05年から農業分野への融資拡大をスタートした。現在、本店にアグリクラスター推進室を設け、スタッフ6人を配置している。同行の農業分野への融資残高は、アグリクラスター体制がスタートした年の05年には118億円だったが、17年3月末時点では約890億円に急増している。鹿児島県は農業生産の中で畜産が3分の2を占め、畜産農家の運手資金の需要が多く、一様に他の都道府県の金融機関とは比較できないが、融資実績は全国でもずば抜けている。畜産を中心に鹿児島大学と経営管理のIT化を進め、家畜を動産担保に取ることで、融資先の経営情報をきめ細かく把握、情報収集や資金提供を行い農家の経営をサポートしている。畜産業のM&A(合併・買収)を活発化させる仲介的な役割も果たしている。資金需要に応えるだけでなく、総合的な農業経営へのサポートを展開することで、顧客の開拓に奔走していることが、功を奏している。

 農業戦略を目玉にしているアベノミクス。その一方で先行きが不透明な農業は、資金需要に閉塞感が漂う。こうした中でどう資金ニーズを掘り起こしていくのか。地元金融機関の責任も大きい。鹿児島銀行では「企業誘致などが停滞する中で、県の産業育成には農業など1次産業の見直しが欠かせない。新しいビジネスモデルを構築して農業振興をサポートしなければ、地元金融機関も展望が開けない」(地域開発部アグリクラスター推進室)という。



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