【WSJで学ぶ経済英語】第246回 名目GDP目標 – ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

<今週のキーワード>

Nominal GDP Targeting(名目GDP目標)

<例文>

The model could be “broadly viewed as a version of nominal GDP targeting,” the paper says. (中略)Mr. Bullard, speaking to reporters in a teleconference press briefing, said his paper was meant to stimulate long-term research and policy debate, not inform immediate policy decisions as the central bank’s June meeting looms. (2015年5月29日)

 研究論文はこのモデルについて、「名目GDPを目標とする政策の一種」とみることができるとしている。(中略)電話会見したブラード氏(セントルイス地区連銀総裁)は、自身も関わった論文について、長期的研究と政策議論を活発化させることを意図しており、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)を前に目下の政策判断を報告するものではないと説明した。

【キーワード解説】

 世界金融危機を脱して以降、長期間の低成長が続く先進国経済。中央銀行による量的緩和策など超金融緩和措置がなければ危機がさらに長引いていたことはほぼ確実だった。しかし低成長が続いているのは、緩和策の度合を決めるベースとなる「インフレ目標」が枠組みとして不十分なせいではないかとの疑念から、新たな尺度として注目されてきたのが「nominal gross domestic product (GDP) targeting=名目国内総生産(GDP)目標」だ。

 現在の枠組みである「インフレ目標」は、インフレが年率2%程度となるように金融政策の引き締めと緩和の強度を決定する。「名目GDP目標」も基本的には同じで、あるレベルのGDPの達成を目標にして、それに応じて金融政策の諸手段を実行していこうというもの。このため、政策の達成目標が異なるものの、その手段は金利の上げ下げや、金利がゼロになっていてなお緩和策が必要であれば量的緩和策をとるなど、その手段は変わらない。

 「名目GDP目標」が「インフレ目標」より優れているとの見方の一因は、インフレ率よりGDPの方がマクロ経済全体の状況をより素早く反映し、金融政策の機動性をより高め景気の変動を小さくできるのではとの考え方だ。

 一方、現在の緩和策の有効性を高めるために、インフレ目標の目標値を引き上げるべきとの意見もある。6年前には、当時の国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストだったオリビエ・ブランシャール氏が、各国中央銀行はインフレ目標を2%ではなく4%にすべきだと提言したが、サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁も8月にインフレ目標値の引き上げは検討に値するとの考えを表明している。

 この背景にあるのは、ノーベル経済学賞を受賞し、現代の経済論壇で影響力を持つポール・クルーグマン氏が提唱した「timidity trap=小心の罠」という考えがある。つまり、目標値を小さく設定すれば、実は景気回復に必要なほどに強力な緩和策をとらないために、弱い回復となり経済資源の余剰と低インフレが逆に続いてしまうという矛盾を意味するものだ。

 ただ、イエレン議長は名目GDP目標への変更やインフレ目標の引き上げなどの枠組み変更には消極的とされる。

【表現のツボ】

 今週は後に続くのが不定詞か動名詞によって意味が変わる動詞の復習。例文にある「his paper was meant to stimulate」にある「mean to」はtoに続く動詞の行為を「意図する」との意味になる。これに対し、meanの後に動名詞が続き、「I meant stimulating along-term research」となると、「私は長期リサーチを奨励することになった」と、「意図」ではなく「結果」を表すことになる。

 このような動詞はほかに多数ある。例えば「remember」ならば、「Remember to take pills=薬を飲むのを忘れないように」 の意味になるのに対し、「I remember taking pills」ならば「私は薬を飲んだのを覚えている」の意味になる。このため、前者の「飲むのを忘れないように」の場合には「Remember taking pills」とは言えない。

【その他の表現】

a version of ~:~の一つの版→~の一種

teleconference:電話会議

loom:(行事などが)迫る

<この表現が使われている記事>

FRB、名目GDP目標も選択肢に=セントルイス連銀総裁

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竹内猛(たけうち・たけし) フリー・ジャーナリスト兼翻訳業

 1980年より共同通信社の日本語記者として主に経済ニュースを取材。日本のバブル崩壊時に日銀・大蔵省担当を長く担当。米国のジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(米外交・国際経済学修士取得)を経て、1997年よりダウ・ジョーンズ経済通信で英文記者。東京支局で日本政治・経済のコラムニストを務め、ワシントン支局で国際通貨基金(IMF)などを担当。2004年より東京支局のマクロ経済・政治総括担当副支局長。2010年の退社後、日本翻訳連盟の日本語から英語への1級翻訳士に2011年合格(金融・証券分野)し、2012年に同連盟の翻訳試験の出題・検定委員。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、国際金融機関の定期出版物などの翻訳と、このコラムの前身である「金融英語」欄を2011年6月より担当。

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