欧州経済見通し-試される欧州の結束- – エキサイトニュース

■要旨

1.ユーロ圏は著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた個人消費主導の成長が続く。個人消費はエネルギー価格の上昇で勢いこそ鈍るが、雇用・所得環境の改善に支えられ拡大が続こう。固定資本投資は、過剰債務や先行き不透明感が重石となるが、企業業績の好調や高稼働率を背景に回復基調は維持されよう。

2.ユーロ圏の実質GDPは17~18年とも前年比1.5%、インフレ率は17年1.7%、18年1.5%と予測する。ECBの著しく緩和的な金融政策は引き続き必要とされ、政策金利は据え置かれるだろう。デフレ・リスク対応の措置の一部は修正され、資産買入れは12月まで月600億ユーロで継続した後、18年に一段と縮小されよう。

3.見通しのリスクは極右・ポピュリストの政権掌握と米国の政策である。フランス大統領へのルペン氏選出には、欧州にとってユーロ離脱等の公約実現の可否を超えた重い意味がある。

4.英国経済は、EU、単一市場、関税同盟離脱による不透明感とポンド安、エネルギー価格上昇によるインフレで鈍化しよう。EU離脱はタイム・フレームも、最終的な着地点も、政治交渉・判断次第であり、不確実性が高い。

■ユーロ圏の現状:個人消費主導の緩やかな拡大続く

ユーロ圏では、著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた個人消費主導の成長が続いている。

3月7日公表の10~12月期の実質GDP(確報値)は前期比0.4%、前期比年率1.6%で、内需主導の緩やかな回復持続が確認された。

外需は0.1%の成長を押し下げた。輸出が前期比1.5%増と回復したものの、輸入が同2.0%と輸出の伸びを上回ったためだ。

他方、内需は、主要項目のすべてが成長に貢献した。個人消費は、雇用・所得環境の改善に支えられ、7~9月期を上回る前期比0.4%増で、実質GDPを同0.2%押し上げた。政府支出も前期比0.4%増で実質GDPを同0.1%押し上げた。固定資本投資は、10~12月期は同0.6%増加した。

固定資本投資は、GDPギャップの縮小と潜在成長率引き上げの両面から回復の加速が期待されているが、なかなか弾みがつかない。10~12月期の伸びでは7~9月期の減少分を取り戻すには至らず、その水準は世界金融危機前を1割ほど下回っている。

16年3月の欧州中央銀行(ECB)の包括的金融緩和策で金融環境は一段と緩和的になり、圏内全体で見れば銀行の資本の強化も進展している。さらに、投資の抑制と需要の回復が続いたことで、設備稼働率も長期平均を上回る水準に達している。それでも、投資の足取りは重いのは、企業部門の過剰債務の解消が進んでいないことに加えて、先行きの不透明感が重石となっているものと思われる。

16年末から足もとにかけて、世界経済の回復の影響もあり、ユーロ圏の景気拡大ペースは加速している。実質GDPと連動性が高いユーロ圏総合PMIは2月に56とほぼ6年振りの高水準となった。経済政策研究センター(CEPR)とイタリア中央銀行が作成するユーロ圏の景気一致指数(ユーロ・コイン指数)、さらに欧州委員会の景況感指数(ESI)も12月から直近(2月)にかけて改善傾向を強めている。

インフレ率も、ゼロ近辺での推移が続いたが、原油価格が前年比で上昇に転じるとともに上向き、2月速報値は2%に達した。2月はエネルギー価格が前年同月比9.2%上昇したことに加えて、食品価格も天候不良が響き、同2.5%上昇した。食品・エネルギーを除くコア・インフレ率は同0.9%で1月と同水準だったが、サービス価格は同1.3%と1月の同1.2%を上回った。

ユーロ参加各国のレベルでも拡大傾向が続くようになっているが、そのペースには格差があり、生産・雇用の水準も様々だ。

16年のドイツの実質GDPは前年比1.9%と堅調さが際立っており、失業率は17年1月には3.8%まで低下した。フランスは同1.2%と拡大のペースが緩慢で、失業率は10%と低下基調がなかなか定着しない。スペインは15年に続き16年も3.2%成長と速い回復ピッチを保った。失業率の低下もさらに進んだが、まだ18.2%とギリシャ(23%)に水準はユーロ圏の中でギリシャに次いで2番目に高い。イタリアの実質GDPも15年は0.8%、16年は0.9%とようやく緩やかな拡大が続くようになった。失業率は11.9%と高止まっている。

失業率の水準には、ユーロ参加国間で大きなばらつきがある。しかも、殆どの国で世界金融危機前の水準を上回る状態となっている。

ユーロやEUへの懐疑の広がりの根底には、世界金融危機と債務危機による二重の打撃の後、成長・雇用の回復ペースが鈍く、失業問題に有効な手立てを打てないことがある。

■ユーロ圏の見通し:17~18年は1.5%成長、インフレ率は17年1.7%に一旦加速

17~18年も緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた個人消費主導の成長が続くと見ている。年間の成長率はともに1.5%と予測する。1%台前半と推計される潜在成長率を超える成長が続くことで、18年にかけてGDPギャップの縮小は一段と進む。

個人消費は、エネルギー価格の上昇が実質所得の伸びを抑えるようになるため勢いは鈍るが、雇用・所得環境の改善に支えられ拡大が続こう。

固定資本投資は、過剰債務や先行き不透明感が重石となるが、企業業績の好調や高稼働率を背景に回復基調は維持されよう。

インフレ率は、15年の前年比ゼロ、16年の同0.2%から17年は1.7%に加速するが、主な要因はエネルギー価格にあり、コア・インフレ率の回復は緩慢なペースと見ている。18年は、エネルギー価格の押し上げ圧力が縮小することで、年間で同1.5%に低下する。しかし、GDPギャップの縮小とともにコア・インフレ率の緩やかな上昇が見込まれ、14年6月以降、ECBに大胆な金融緩和の強化を迫ったデフレ・リスクは後退したと判断できるようになるだろう。

■ECB金融政策:17年中は600億ユーロの資産買い入れを約束。政策金利は据え置き

ECBは、デフレ・リスクへの対応として14年6月からマイナス金利、資産買い入れ、最長4年のターゲット型資金供給(TLTRO)、フォワード・ガイダンスからなる緩和策を強化してきた。

資産買い入れは、15年3月に月600億ユーロで始動したが、16年3月に新興国不安に対応して月800億ユーロに増額、16年12月の政策理事会で17年4月からは再び月600億ユーロに戻し、少なくとも17年12月まで継続することを決めている。

政策金利は、16年3月の利下げ後、中銀預金金利マイナス0.4%、市場介入金利ゼロ、中銀貸出金利0.25%と過去最低水準で据え置かれている。

予測期間中、政策金利は現状水準を維持すると思われる。既述のとおり、ユーロ圏経済の拡大ペースが緩やかで、過剰債務の圧力もあり、投資の回復が弱い。労働市場の余剰も解消しておらず、ECBの著しく緩和的な金融政策が必要とされている。

しかし、14年6月以降のデフレ・リスクに対応した措置は徐々に修正されるだろう。TLTROは14年6月から3カ月毎に実施、16年3月からは貸出のベンチマークを超えた金融機関にはその度合いに応じて中銀預金金利までのマイナス金利を適用するTLTROⅡにバージョンアップした。TLTROIIは17年3月が最終となるが、プログラムをいったん打ち切る可能性がある。

4月から200億ユーロ額を減らす資産買い入れについては、すでに名目GDP比4割近い水準まで達している。政治イベントが相次ぐ17年の継続はやむを得ないとしても、18年入り後は一段の買い入れ規模の縮小に進むと見られる。

■ユーロ圏見通しのリスク:極右・ポピュリストによる政権掌握と米国の政策

見通しのリスクは大きく2つある。

1つは、3月15日のオランダ総選挙を皮切りとする主要国の国政選挙でEU離脱やユーロ離脱を公約に掲げる極右・ポピュリスト政権が誕生し政策が混乱するリスクである。

もう1つは、米国のトランプ政権の政策期待の剥落や保護主義的通商政策、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによる資本流出の加速で持ち直しつつある新興国の景気が再失速するなどの影響がユーロ圏に及ぶリスクである。

うち、圏内の政治リスクについて、別稿で論じたとおり(注1)、ユーロ圏主要国で極右・ポピュリストへの支持が広がっているとは言え、過半数の支持を得るまでには至らないことから、単独政権や大統領の誕生はなく、政策の混乱は回避されると見ている。ユーロ離脱やEU離脱の国民投票の実現には法的なハードルも高い。

EUの創設メンバーの国々が、英国よりも深く統合に組み込まれ、その利益を享受しているという面からも、一連の政治イベントが離脱のドミノにつながることはないと考えている。

しかし、リスク・シナリオとして、やはりフランス大統領選挙におけるルペン氏勝利は十分警戒したいと思っている。2月下旬からの欧州出張では、ルペン氏の公約の実現が可能か否かという以上に、ドイツとともに統合を牽引してきたフランスの国民が反EUの大統領を選ぶことが重い意味を持っているということを強く感じた(注2)。

米国の政策については、まだ不確実な面が多いが、すでに影響として表われているのは、大統領選挙後の米国の長期金利の上昇に連動したユーロ参加各国の長期金利上昇だ。

資産買入れが継続されているため、水準的にはまだ低いものの、フランスやイタリアなど政治リスクが警戒される国ではリスク・プレミアムが上乗せされる現象も見られる。

ECBは直接監督する銀行の金利上昇リスクに対する耐性を点検する特別ストレス・テストを行なう方針を表明している。米国の政権交代による政策の軌道修正と市場参加者らの期待の変化は、これから先もユーロ圏の経済や市場に影響することになるだろう。

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(注1)Weeklyエコノミスト・レター2017-02-10「トランプ大統領の米国とEU-統合の遠心力はますます強まるのか?http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55040&pno=3?site=nli」をご参照下さい。
(注2)研究員の眼2017年3月3日「気がかりな3つの断層-ロンドン、パリ、ブリュッセル、フランクフルトを訪れて感じたことhttp://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55202?site=nli」をご参照下さい。
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■英国経済の現状:EU離脱選択後も雇用・所得環境は変わらず堅調維持

16年の英国経済は、6月の国民投票でEUからの離脱を選択した後、事前の観測とは裏腹に、成長ペースが加速した。年間の実質GDPは前年比1.8%と巡航速度を保った。

景気が減速しなかった理由として、離脱ショックによるポンド安が輸出、観光にプラスに働いたことが指摘される。実際、10~12月期は輸出が前期比4.1%、輸入が同0.4%減で、外需が最も大きく実質GDPを押し上げた。但し、7~9月期は輸出が減少、輸入が増加しており、明確なトレンドは確認できない。観光の押上げ効果についても、海外居住者の英国への訪問者数も増加しているが、その支出は、少なくとも統計上は、前年とほぼ同程度の水準にあり、堅調持続の主要因とは言い難い。

ポンド安は一定の役割を果たしたと思われるが、雇用所得環境が短期的に大きく変わらず、個人消費が底固さを保ったことが基調を決めた。失業率は、直近(10~12月期)も4.8%と世界金融危機前のボトム(4.7%)に近づいている。賃金も同じ期間に前年比2.6%増と上昇基調が続いた。消費者のマインドも、国民投票直後に一気に冷え込んだ後、一旦戻している。

政府が、直ちにEU離脱手続きに進まず、今年1月のメイ首相の演説まで、EUは離脱しても、財・サービス・資本・ヒトの移動の自由を原則とする単一市場には残留するのではないかというソフトな離脱への期待が続いたことがある。

しかし、1月にメイ首相が示したのはEU離脱ばかりでなく、単一市場、さらに関税同盟からも去る離脱戦略だった。離脱協議の起点となるEU首脳会議への離脱意思の通知も、本稿執筆時点では、首相に通知の権限を与える法案を上院がEU市民の権利保障と離脱協議の最終案の議会の拒否権を求める修正を行なったことで、当初予定よりも時期は遅れる見通しだ。しかし、英議会では下院に優越権があり、下院が上院の修正案を否決した場合に、上院が再修正を求めることはなく、政府が目標としてきた3月末までの通知を妨げることはないと見られている。

■英国経済の見通し:実質所得減少とEU離脱協議を巡る不透明感が重石に

今後は、EU離脱が現実味を帯びることが、投資や雇用に影響を及ぼし始め、内需の伸びは鈍化するだろう。さらに、離脱選択後のポンド安とエネルギー価格上昇によるインフレが、実質所得の伸びを抑えることも、個人消費の伸びを抑制することになるだろう。

ポンド相場は、6月の国民投票後、大幅に減価した後、メイ首相が始めて離脱戦略の方針を表明した10月の保守党大会演説、さらにEU離脱とともに、単一市場からの離脱を明言した1月のランカスターハウス演説の前に再度安値をつけた後、一旦は反発したものの、FRBの3月利上げ観測の急激な高まりでポンド安に転じるなど不安定な推移が続いている。

中央銀行のイングランド銀行(BOE)は、国民投票後、利下げ、量的緩和再開、社債買い入れ、資金調達支援策からなる包括的な金融緩和に動き、追加緩和も示唆していた。しかし、景気が底堅さを保つ一方、ポンドの大幅安によるインフレ加速の兆候も見られることで、追加利下げも量的緩和の延長も見送り、足もとは景気減速とインフレ加速両睨みの中立スタンスに転じている。

今後は、景気の減速が見込まれる一方、資本流出によるポンド安リスクにも配慮が必要であり、予測期間中は、中立スタンスでの現状維持を継続すると見ている。

■英国のEU離脱:19年3月離脱、フェーズ・アウト型の移行期間入りを想定

今回の見通しでは、政府方針通り、3月末までにEUに離脱意思を通告、19年3月にEUを離脱、離脱後は、将来の包括的な自由貿易協定(FTA)を視野に入れつつ、段階的に英国がEU市場へのアクセスを失う「フェーズ・アウト」型の移行期間入りをイメージしている。

しかし、英国のEU離脱と移行期間のタイム・フレームや、離脱後のEUとの関係については、基本的にすべてが政治交渉と政治判断に委ねられるため、多様なシナリオが考えられる。あくまでも暫定的な想定である。

先行きは極めて不透明とは言っても、1つはっきりしていることは、英国政府が描くFTAの大枠を2年間でまとめ、離脱と同時に移行期間に入る「フェーズ・イン」は、かなり困難ということだ。

英政府の離脱戦略の実現を妨げる理由は主に2つある。

第1の理由は、単一市場からも関税同盟からも去り、EUとは新たにFTAを締結するという戦略の実現に必要な作業は膨大になることだ。しかし、英国の交渉官は不足している。EU市場のアクセスの条件は「今よりも確実に悪くなる」という後ろ向きの作業であるだけに、不足が解消する見通しも立ちにくい。英国が、関税同盟から去る目的はEUがFTA等を締結していない米国や中国、インドなどとFTAを締結し、「真のグローバル・ブリテン」となることにある。しかし、EUを離脱しなければ、これらの協議を開始できない。EU離脱後は、EU加盟国として締結していたFTAの再締結作業も必要になる。交渉官の不足は「真のグローバル・ブリテン」戦略の制約ともなる。

第2の理由は、EU側はEUに懐疑的なポピュリストの勢いに歯止めを掛けるためにも、英国との交渉に厳しいスタンスで臨もうとしていることだ。協議の順序についても、英国政府は平行協議を望んでいるが、EU側は離脱協定を優先、FTAは後回しの方針だ。EU側が600億ユーロと見積もる離脱費用と、英国内のEU市民、EU内の英国市民の権利に関する協議だけでも、かなりの時間を要しそうな雲行きだ。

離脱派の政治家が主導した英国のEU離脱戦略の実現可能性については、通商交渉の経験者や、実務家、規制当局者らは懐疑的だ。筆者が、2月下旬からの欧州出張で得た感触では、「EUとの協議の結果、離脱のコストが大きすぎることが明らかになり、離脱の是非を改めて問い、離脱が否決される」といった「残留シナリオ」をメイン・シナリオとして想定する専門家はごく少数だ。しかし、「作業が余りに膨大で、しかも、後ろ向きの作業であるために、英国は離脱を断念するかもしれない」という思いを抱いている専門家は決して少なくない。

英国のEU離脱はタイム・フレームの面でも最終的な着地点についても不透明感が著しく高い。

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伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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