産総研:橋梁のひずみ分布をモニタリングできるセンサーシートを開発 – 産業技術総合研究所



-貼るだけで橋梁の劣化状態を把握できるフレキシブル面パターンセンサー-

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)集積マイクロシステム研究センター【研究センター長 廣島 洋】社会実装化センサシステム研究チーム 小林 健 研究チーム長、同センター ウエアラブルIoT研究チーム 山下 崇博 研究員は、大日本印刷株式会社【社長 北島 義俊】(以下「DNP」という)と共同で、橋梁のひずみ分布をモニタリングするセンサーシートを開発した。

 近年、橋梁の劣化状態を把握するためにセンサーでひずみ分布をモニタリングする方法が検討されているが、光ファイバー式は敷設コストが高価であり、また、箔ひずみゲージでは消費電力が大きい、フレキシブル基板や接着材の屋外耐久性が低い、施工方法が煩雑、などの課題がある。

 今回、MEMS技術により極薄化したシリコンセンサーや回路チップをフレキシブル基板上に集積化する技術を開発し、圧電MEMS技術で作製した極薄PZT/Siひずみセンサー(長さ5 mm、幅1 mm、厚さ3 µm)をフレキシブル基板上に配置して、保護フィルム、接着フィルムと一体化したフレキシブル面パターンセンサーを作製した。また、このフレキシブル面パターンセンサーを高速道路橋に複数枚貼り付けると、車両通過に伴う橋梁の動ひずみ分布をモニタリングできた。

 この成果の詳細は、2017年4月12日にコクヨホール(東京都港区)で開催されるFLEX Japan 2017のMEMS and Sensor Sessionにて報告される。

(a)開発したセンサーの全体像と拡大図、(b)(c)センサーを用いた鋼橋溶接部付近のひずみ分布測定の様子の写真
(a)開発したセンサーの全体像と拡大図、(b)(c)センサーを用いた鋼橋溶接部付近のひずみ分布測定の様子

 橋梁の点検は専門の作業員による直接目視を基本とし、亀裂が発見された場合は渦流探傷などによる精密点検を行った後に補修・補強をして経過観察を行う。しかしながら、近年の老朽化橋梁数の増大に伴い専門作業員が不足し、点検やその後の経過観察が十分にできないという問題が生じている。そこで、近年では効率的なインフラ維持管理のために、インフラの劣化・損傷状態を常時モニタリングし、モニタリングデータを元に、健全性評価やインフラの状態に対応した点検を実施するための技術のニーズが増している。

 このような背景から、橋梁などの道路インフラ構造体を維持管理するために、センサーを活用した構造ヘルスモニタリングの導入が進みつつある。その中でも最も基本的な手法が、ひずみセンサーを用いたひずみ分布のモニタリングである。しかし、光ファイバー式のひずみセンサーは敷設コストが高く、有線ひずみセンサーでは、多数のセンサーを貼り付けるため施工性や配線の取り回しに難点があった。

 産総研 集積マイクロシステム研究センターでは、無線MEMSセンサーを用いて鶏の健康や消費電力をモニタリングするシステムの研究開発を端緒に、土砂災害、インフラ、空調設備、畜産動物、バイタルサインなどさまざまな場面に応じたモニタリングシステムを開発している。

 今回、太陽電池パネル用バックシートやコンクリート応急補修シートといった機能性フィルム事業を展開するDNPと共同で、屋外環境での耐久性を備え施工の容易な、橋梁のひずみ分布をモニタリングするセンサーシートの開発に取り組んだ。

 なお、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト①インフラ状態モニタリング用センサシステム開発」(平成26~30年度)の事業を技術研究組合NMEMS技術研究機構が受託し、それに参画する産総研とDNPはサブテーマ「フレキシブル面パターンセンサによる橋梁センシングシステムの開発」の一環として今回の研究開発を行った。

 今回、新たに極薄シリコン・フレキシブル基板実装技術と、保護フィルムと接着フィルムとの一体化技術を開発し、現場で簡便に貼り付けられるフレキシブル面パターンセンサーを開発した。これを貼り付けた橋梁上を車両が通過すると、フレキシブル面パターンセンサーが橋梁と一体となってひずみ、極薄PZT/Siひずみセンサーがひずみに比例した電圧を出力するため、動ひずみ分布を高感度で計測できる。橋梁に亀裂などの欠陥があると、車両通過時のひずみ分布に異常が現れることを利用して、橋梁の劣化状態をモニタリングできる。

 図1(a)に今回開発したフレキシブル面パターンセンサーの作製プロセスを示す。あらかじめフレキシブル回路基板と保護フィルムを接合しておく。圧電MEMS技術により極薄PZT/Siひずみセンサー(長さ5 mm、幅1 mm、厚さ3 µm)を作製し、特殊なコレットを装備したチップマウンターによってフレキシブル回路基板上に繰り返し転写した後、銀ペーストをスクリーン印刷して一括で配線する。これに接着フィルムをラミネートして、フレキシブル面パターンセンサーを作製する。センサー部分と接着部分が一体化しているので、プライマーを塗った橋梁構造体の表面に貼り付けるだけで簡便にセンサーを取り付けることができる。

 橋梁構造体に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサー(図1(b))、アンプ・通信モジュールや受信機でセンサーネットワークシステム(図1(c))を構成して、橋梁の劣化状態を常時モニタリングする。なお、今回は圧電薄膜にPZT薄膜を用いているが、有害物質を含まないAlN、ScAlNなどの圧電薄膜も、同様に使用できる。

フレキシブル面パターンセンサーの作製プロセス、亀裂の入ったステンレス板試験体に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサー、システムの全体像の写真
図1 (a)フレキシブル面パターンセンサーの作製プロセス、(b)亀裂の入ったステンレス板試験体に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサー、(c)アンプ・通信モジュール、受信機まで含めたシステムの全体像

 図1(c)に示すように、ステンレス板の試験体を自由振動や上げ下げによって曲げた場合の極薄PZT/Siセンサーからの出力電圧は、亀裂の有無で3~5倍程度異なる(図2(a))。そのため、各センサーの出力電圧をマッピングして、ひずみの面パターンとして表示すると、貼り付け箇所に亀裂などの異常が発生したかどうかを把握できる(図2(b))。

 今回、阪神高速道路株式会社の協力を得て、実際の高速道路橋にフレキシブル面パターンセンサーを複数枚施工し(図2(c))、アンプ・通信モジュールを接続して測定したところ、車両通過に伴う橋梁の変形をひずみ分布としてモニタリングできた(図2(d))。今回の実証実験のように、橋梁の動ひずみ分布を継続してかつ常時モニタリングできれば、橋梁の劣化状態を把握でき、橋梁の健全性評価や効率的な点検を行うことができるようになる。

フレキシブル面パターンセンサーを貼り付けた試験体を変形させた場合の(a)亀裂上、平滑面上のセンサーからの出力電圧波形、(b)出力電圧のピーク値のマッピング、(c) 接着フィルムによる簡易施工、(d)高速道路橋に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサーによる鋼橋溶接部付近のひずみ分布測定の様子の写真
図2 フレキシブル面パターンセンサーを貼り付けた試験体を変形させた場合の(a)亀裂上(赤)、平滑面上(黒)のセンサーからの出力電圧波形、(b)出力電圧のピーク値のマッピング(色は数値で示したひずみの相対値の大きさを表す)、(c) 接着フィルムによる簡易施工、(d)高速道路橋に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサーによる鋼橋溶接部付近のひずみ分布測定の様子

 今後は、高速道路橋にフレキシブル面パターンセンサーを貼り付けて、ひずみ分布測定と屋外耐久性評価を行うとともに、補修・補強した橋梁の経過観察の実証試験を行う。また、今回開発した極薄シリコン・フレキシブル基板実装技術を、アンプやマイコンなどの回路チップにも適用し、信号処理・通信モジュールをフレキシブル基板上に集積化するハイブリッドエレクトロニクス技術の開発を推進する。さらに、大判の基板を用いることによる低コスト化についても検討を進める。



こんな記事も読まれています



コメントを残す